人材育成セミナー・ビジョンシーク株式会社

ポータブルスキルを鍛える

ビジョンシーク㈱パートナー講師 細井 成

◇「あなたが、この10年間で得た知識や培ったスキルは何ですか?」研修で受講者の皆さんにこんな質問をすることがあります。
皆さんは、頭を捻りながら言語化を試みます。
業界・商品知識、プログラミングスキル、経理知識、営業・接客スキル、オペレーションスキル…等々。
次に、こんな質問をします。
「その知識やスキルは、今後10年間も活かせるものだと思いますか?」
結構イジワルな質問ですよね。
皆さんは、先ほどの質問よりさらに頭を捻り出します。正直な答えは、「そんなのわかるか!」かもしれません。

◇予測不能な時代:VUCAワールド
Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取ったVUCAという言葉は、だいぶ定着しているようです。
企業の将来も個人のキャリアも“予測不能”なのは、間違いないのでしょう。
今後10年間も活かせる知識やスキルは何か?という問いに対する明確な答えは出しにくい。

◇1年の経験を単に10回繰り返しただけ?
転職活動中の求職者と面接官のショッキング?な会話の様子が、ある本に出ていました。(本のタイトルは失念してしまいました…)
求職者:「この分野では、10年間に渡って経験を積んでまいりました!。」
面接官:「ちょっと言いかえさせていただきたいのですが、あなたは10年間の経験があるというよりも、1年の経験を単に10回繰り返してこられただけのようですね…。」
もし、自分が、こんなことを言われてしまったらツライ、ですね。

◇多くの知識やスキルは、陳腐化する。
例えば、年間1万円で使えるクラウド会計ソフトを使えば、誰でも簡単に勘定科目の仕訳ができます。ホームページ作成ソフトを使えば、洗練されたデザインのホームページが無料でスグにできます。
税理士や、HP制作会社に頼むしかなかったことも、今は、個人で十分にできる。
「より便利により安く」を目指して、商品やサービスが進化を続けている以上、“人”が持っていたスキルが、“システム商品”でできるようになるのは、当然の帰結です。
そして、その流れに拍車をかけているのがAIです。

◇82%の人が「人間の上司よりも、AIの上司の方が仕事ができそうだと思う」と回答。
OracleとFuture Workplaceが2019年に実施したAIに関する調査「AI at Work」(10カ国の労働者8370人が対象)におけるデータです。
ちなみに、「AIが人間の上司より優れていると思うのはどんな所ですか?」との質問には、
「偏りのない情報提供(36%)」
「スケジュールの管理(34%)」
「問題解決(29%)」
「予算管理(26%)」
「詮索せず秘密の質問に答えてくれる(21%)」
「チームのパフォーマンス評価(20%)」という回答が、並んでいます。一見、代替が難しいと思われる管理職の仕事ですが、実は、部下の仕事よりAIに取って代わられる可能性が高いのかもしれません。

◇ポータブルスキル
業種・職種に関わらず、どのような仕事や職場でも通用するスキルのことです。“思考スキル”や“対人スキル”等がこれにあたります。
“コンセプチュアルスキル”や“ヒューマンスキル”とも呼ばれるスキルです。
VUCAの時代を生きる我々は、活かせる職場が限定されるスキルではなく、ポータブル、つまり、どこにでも持ち運べるスキルを身につけるべきです。(具体的には、ロジカルシンキングやコミュニケーションスキル等)
専門的な知識やスキルは、職場で自然に身についていくものですが、ポータブルスキルは、意識して学ばないと、自然には身につかないのです。
研修は、ポータブルスキルを学ぶことの重要性に気づく重要な機会になります。
気づきを活かして課題を設定し、少しずつでも学ぶか、または意識すらしないまま過ごすかでは、5年後、10年後に大きな違いが生まれるのは明らかでしょう。

◇2030年に必要とされるスキル
オックスフォード大学のオズボーン教授が「2030年に必要とされるスキル」というレポートを発表しました。
その中で、120種類の知識・能力・スキルがランキング化されています。
それを見てみると、

1位: 戦略的学習力(Learning Strategies) 
2位: 心理学(Psychology) 
3位: 指導力(Instructing)  
4位: 社会的洞察力(Social Perceptiveness)
5位: 社会学・人類学(Sociology and Anthropology)  
6位: 教育学(Education and Training)  
7位: 協調性(Coordination)  
8位: 独創性(Originality)
9位: 発想の豊かさ(Fluency of Ideas)
10位: アクティブラーニング(Active Learning)
11位: 心理療法・カウンセリング(Therapy and Counseling)
12位: 哲学・神学(Philosophy and Theology)
13位: 伝達力(Speaking)  
14位: サービス志向(Service Orientation)  
15位: アクティブリスニング(Active Listening)
(The Future of Skills:オックスフォード大学オズボーン教授)
もちろん、このデータは“一つの仮説”に過ぎませんが、多くのヒント・示唆に富んでいると思います。
身につけるべきなのは、何か個別の職業を遂行するスキルではなく、人間関係構築やアイデア創出のための“普遍スキル”であるということです。ポータブルスキルと相通じるものと言えます。
そして、それらのスキルは“勝手に身につく”ものではないということです。
“戦略的学習力”が1位なのは、納得感があります。
これからの10年は、“何を学ぶのかを見極めること”がますます重要になる、と思うのです。

【後記】
「AI at Work」にはこんなデータもあります。
~「人間の上司の方が優れている点は?」という質問への回答~
「気持ちを理解してくれる(45%)」
「指導してくれる(33%)」
「労働文化を作る、もしくは発展させる(29%)」
「チームのパフォーマンス評価(26%)」
“人間”の上司には、やはり、“人間らしさ”が期待されているようです…。